阿部養庵堂薬品 代表・阿部朋孝が、あらゆる業界の第一線で活躍する巨人たちとの対話を通じて、若さと成功への知見を得る対談シリーズ。
記念すべき第1回は、現KDDIの創業者・千本倖生さんにお話を伺います。
千本さんがどのようにして若々しさを保ち、長年にわたる成功を収め続けることができたのか、その全6回で秘訣を深掘りしていきたいと思います。
日本の技術と未来の可能性
阿部 海外の市場動向などを鑑みて、日本は今後何で勝負したら良いと思いますか?
千本 ひとつ希望があるのは、Appleにしろ、googleにしろ、作っている製品のモーター、コンデンサー、それからICチップの90%は日本製です。日本電算(元 ニデック)のモーターや、村田製作所のコンデンサーが入っている。だからAppleやgoogleはスマホ製品等を相当作っているけれど、製品の中身は実は日本の製品ばかりだということになります。この部分は大きな強みだと思います。
村田製作所、日本電産(元 ニデック)、大日本スクリーン、京セラとか、そういう企業の強さは大事にした方が良いですね。そこから、経済回復の目が見えてくると思います。
阿部 なるほど。その“作る”能力が、やはり日本は非常に高いわけですね。
千本 高い。そこはもう負けませんね。
阿部 それは、リバースエンジニアリングなんかの方法で、中国や韓国などが追いついてきているということはないのでしょうか。
千本 圧倒的な技術差があるので、日本はその技術をベースにしながら、再び“組み立てる”領域に出ていく可能性はあると思います。
阿部 デザインをするような斬新なビジョンを持った、Appleのような企業というのが日本から出てくる可能性がある、ということでしょうか。
千本 そういった企業が出てくれば、日本の技術をうまく組み込んで、リカバーするチャンスがあると思います。
阿部 なるほど。話は変わりますが、“日本=世界一の長寿国”と言われています。僕はこれをネガティブな文脈だと感じていて、長寿が本来持つ意味ではなく、「平均年齢が高い」というところで語られているように捉えています。ベトナムやカンボジアは若者の人口が多く若いなりのアドバンテージがあるように受け取られていますが、日本は老いているからアドバンテージがない、という風に語られているのではないか、と思っています。
千本 そんなことはないと思いますよ。ある意味でネガティブだと捉えられていたものが、実は特徴になるというのは、まさに『リープフロッグ』です。例えばアフリカは、「通信環境が発達してないから産業が遅れている」と世界で認識されていたのが、一気にリープフロッグを起こした結果、国民全体が携帯を使いはじめましたよね。同様に、日本は長寿国であるからこそ革新的な技術、製品、サービスが生まれ、市場に新たな価値をもたらすと思っています。
阿部 僕は日本は世界一の長寿国家という点を生かして、日本から不老長寿のテクノロジーが生まれるべきだと思っています。僕自身も今、不老長寿の研究をしているところですけれども、日本を“不老長寿国”として、存在感を発揮していく戦略を取っていきたいのです。
千本 面白いと思いますね。本当に、戦略的に一番いいポジションにいますよね。
阿部 ありがとうございます。先生の話をもとに、次のステージへ進むべく邁進します。
(了)
編集後記:インタビューを終えて
千本先生の優しく微笑んでいる顔の下には、圧倒的な経営者としてのオーラを隠している。隠さないと、多分相手が萎縮してしまうのだろう。座って相対した瞬間にそう感じる。強く優しいから、ロマンとソロバンは成り立つんだな。こんなカッコいい経営者になりたいと思った。
千本先生が一貫して伝えたいメッセージは「あなたにもやればできますよ」だった。経営を通じて人を磨き、そして他者に救いの手を差し伸べる姿を見て、経営はクリスチャンである先生にとって祈りの所作の一つなのだと感じた。
現場に赴き、現場の声を聞くことや、面白いことが起きている場所が地球の裏だろうと、自分の足と目で確かめに行くこと。とても重い責任を負いながらも身軽でいることは、シンプルなようで、実は一番難しいことなはずだが、責任がまだまだ軽い自分は、腰が重い。
現在39歳の自分が、御歳82歳の千本先生に単純な活動量で負けている事実を、伝説の経営者と比較してもしょうがないと思うか、それとも、なにくそ!と思うかで、今後の人生が大きく変わるはず。先生から直接、叱咤激励を受けられる幸せと苦しさを噛み締めながら、さらに良い会社、良き自分になるために努力を続けようと思う。